英国ハダーズフィールドの南西、オールダムにある「ドブクロス村」。この地で1800年代の後半、
すなわち産業革命の終わり頃に機械動力による織機が発明されています。「ドブクロス」と名づけられた
機械式織機です。1日で織り上げられる服地は約40m(現在の新鋭織機ですと、約240m/日)。
そのたたずまいは、博物館に展示されるような古式ゆかしい鉄の塊。動くのが不思議なくらいの外観ですが、
現在も世界で14台ほどが残存・稼働していると言います。前時代的な性能ゆえに、時間をかけて緩いテンションで
弾性に富む豪奢な服地を織り上げることが可能です。フィニッシング工程が進歩した現在では、
「ドブクロス」のような旧い織機で織った服地に近い質感をつくり出すことができますが、
着込んでゆくうちに「ドブクロス」製との差はかなり顕在化してくると言われています。したがって、
ヴィンテージ・クオリティの服地を支持する極めて少数の顧客層に対して、
売れ筋とはまったく異なる服地をごく限られたテーラーに供給するためだけに「ドブクロス」の服地は
存在しているのです。「贅」とはこういうことを言うのでしょうか。