外套のような重衣料は、その冬の温度とは関係なく売れ行きが変化すると言われています。つまり、暖冬であろうが厳しい冬であろうが、気温はそれほど影響しないというわけです。では何が重衣料の販売を左右するのか。思い出してください、日本が好景気で沸いたバブルの時代を。’80年代半ばから’90年代初頭にかけて売れたのはレザーや薄手の軽快なコート類。女性にいたっては冬でもボディコン・ワンピースの上に1枚羽織るだけでやり過ごしていました。なぜ、当時は軽めの防寒着(あるは防寒着を着ない)が街頭を闊歩したのか。みんなタクシーやマイカーという暖かい環境で屋外を移動できたからです。費用はもちろん経費で落としました。しかも、バブルですのでどこへ出かけても街中が暖かい。暖房を惜しみなく使っていました。だから、誰もが薄手の防寒着で会社に行き、夜通し遊びまくっていたわけです。一方、オーヴァーコートのような重くて分厚い防寒着が支持された時代を思い起こしてみると、やや厳しい時代だったような気がします。たとえば、大恐慌時代、第二次世界大戦戦前、日本の失われた20年。大恐慌時代の写真を見ると、厚手のオーヴァーコートで配給の食事をもらう行列であったり、室内でも暖房を使わずオーヴァーコートで過ごしていました。英国の首相だったチェンバレンが戦争回避のために奔走していた頃の写真にも、重いオーヴァーコートを着た彼の姿が映し出されています。二次大戦前の英国経済も逼迫していました。さて、今年の冬はどうでしょう。東京五輪を4年後にひかえ有効求人倍率は高水準とは言え、景気の浮揚感がいまひとつ。寒い懐を暖める意味で、オーヴァーコートでも着ましょうか。