毛織物服地を生産・供給している業態は大きく2つに分類されます。ひとつが、織物工場である「ミル/Mill」。もうひとつが、生地商と呼ばれる「マーチャント/Merchant」です。工場や織機を所有し、毛糸の紡績や服地の織布といった生産を主たる業務にしている「ミル」は製造業と言えます。一方、自社の商品戦略に則った服地を様々な「ミル」へ反(ピース)単位で発注し、購入・品揃えした在庫を抱えて商売をする「マーチャント」はいわば流通業にあたります。
両者は相互依存の関係にあり、歴史的にも共存共栄を続けてきました。資本規模の小さい「ミル」には大量の在庫を抱えられるだけのお金もなければ、販路を拡大していく営業力もありません。あるのは、技術力と設備。「ミル」に比べて資本力のある「マーチャント」には服地を織る技術や設備はありませんが、売れ筋の服地を企画したり、それを売りさばく営業力や資金力(在庫を抱えられる)を持っていたりと、商社的な機能を持ち合わせていました。
しかし、世界的な外国資本の自由化が行われて以降、両者の住み分け関係に大きな変化が訪れることになります。英国における「ミル」と「マーチャント」のボーダーレス化です。「ミル」の中には自ら資金を調達し、服地を積極的に直販するようになった会社もあります。他方、「ミル」を買収して自らの資本系列傘下に置き、製販一体のビジネスモデルを構築した「マーチャント」も登場してきました。以後、このような「ミル」と「マーチャント」の業務機能が混在するようになっています。たとえば、「テーラー&ロッジ」のように服地関連企業がアライアンスを組むことで資金を調達し、「ミル」ながら「マーチャント」が行うようなマーケティングにも力を入れています。また、大手「マーチャント」である「スキャバル」や「ドーメル」のように傘下に資本注入した「ミル」を抱えることで、少量生産〜大量生産までフレキシブルな服地の供給を可能にしている事例もあります。
今後は「マーチャント」および「ミル」にかかわらず、さらに多くの服地ブランドが資本の事情により統廃合され、製販統合が常識となってくことは間違いありません。そうなった時に、服地ブランドを「ミル」と「マーチャント」に区分することが果たして意味があるのかが問われてはじめています。