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「シシリアン」を観て、コート・スタイルの奥深さを識る。

             

ジャン・ギャバンとアラン・ドロンの競演といえば、「地下室のメロディ」(1963年)と思いきや、「シシリアン」(1969年)も忘れてはいけません。というのも、両作品ともに監督はアンリ・ベルヌイユ。ですから、「シシリアン」が続編のようにも思えてしまうのは無理からぬことかもしれません。

観どころは何と言っても出演者の服装です。’69年の映画にしてはミニマルかつフィルムノワール的な、言い換えれば’60年代初期の服装を選んでいます。ドロンはブラックのニットタイにダーク系のジャケット。警部役のリノ・バンチェラも非常にミニマルなダークスーツにソリッド・タイ(単色)。そしてダブル・ブレステッドが定番の親分、ジャン・ギャバン。

‘69年と言えば、長髪、フレアシルエットのトラウザーズ、幅の広いラペルといった色鮮やかなファッション変革が世界を席巻しているタイミング。その影響を否定し、ひたすら’60年代初期のミニマル・スタイルを貫いているこの作品。おそらくアンリ・ベルヌイユ監督の’60年代の総括、あるいは肯定的なノスタルジー、さらに言えば当時隆盛のアメリカン・ニューシネマに対する彼の返答と言えるかも知れません。

注目したい服装のひとつに主演格の3人が着るコートがあります。ギャバンのチェスターフィールド。ドロンのトレンチ。バンチェラのバルカラー。いずれも王道の定番コートですが、映画のために微妙にチューンしているところが興味深いところでしょう。

シシリアン・マフィアの役どころであるギャバンのチェスターフィールド。ソフト・テーラリングの高質な仕立てが見て取れます。察するにクラシコ・イタリアの仕事です。ドロンのトレンチはどうでしょう。当然英国の既製品ではなく、デザインされたビスポーク品であることはサイジングおよびスタイルから想像できます。おそらくフランスの仕立屋が手がけたのでしょう。バンチェラは薄給の警部役なのであえて既製品のようなのバルカラー(いやはや素晴らしいAライン)を着ていますが、これもプロレスラー体型の彼に合わせたビスポークに違いありません。

この映画、コットン・コートに関しては端役を含めいろいろなスタイルのものが劇中に登場しますが、いずれも英国の老舗で作られているものとは違う、フランス人らしい柔らかさと堅さを兼ね備えた風情にハッとさせられます。コートの世界の奥深さを改めて認識させられる一本です。(本店  長谷川)

製作年:1969年
原題:Le Clan des Siciliens
配給:20世紀フォックス
製作国:フランス
監督・脚本:アンリ・ベルヌイユ
音楽:エンニオ・モリコーネclan
Alain DELON, Jean GABIN, Lino VENTURA

Alain DELON, Jean GABIN, Lino VENTURA

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Bespoke Tailor batak.