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「誂える」ということ。

本格的な春を前にして、洋服を扱うショップの店先には「今年の春夏」をうたった新商品が並びます。それに合わせて、多くの生活者は春には春の、夏には夏の洋服を買うわけです。需要予測をもとに、「アパレル」と呼ばれる規模の大きい洋服メーカーは大量のかつ多彩な商品をショップに供給します。そして、シーズンの終盤には需要予測がハズレた大量の在庫商品を、“バーゲン”という投げ売りで処分します。シーズン初頭の値札は何だったのだろう、という疑問をよそにアパレルはリスクヘッジのため、多かれ少なかれそうした販売方法を取らざるを得ません。一方、注文服の場合はどうでしょう。当店の店頭には仕立て上がり納期までのスケジュールを考え、真夏に真冬のスーツをオーダーされる方が頻繁に訪れます。そうかと思えば、10月にライトウエイトのトロピカル・スーツを採寸にいらしてご注文されるお客様も多数いらっしゃいます。私たちがシーズンに関係なく、多彩な服地を店頭に在庫している理由はそこにあります。テーラーのような受注ビジネスでは、基本的にお客様の都合が優先されます。「シーズンだから」という発想よりも、お客様の意向であれば「いつでもつくる」「流行や在庫にとらわれない」を基本コンセプトにビスポークの仕事をしています。もちろん、トレンドとは主にメディアや大手アパレル企業が打ち出すものですので、お客様の好みと誤差もあれば差違も顕著です。時代の感覚はお客様次第。流行と真逆なセンスもまさに「あり」。それを後押しする仕事をしてまいりたいと日々励んでおります。

春先でも、真夏でも、真冬でも、あらゆる服地をご用意しております。