着る機会が多い人でも年に10数回ほど、というのがディナー・ジャケット(米国流の呼称はタキシード)です。だからでしょうか、既製品やレンタルで十分だという多くの方の意見もあります。しかし、その少ない機会こそ、人脈をつくり、チャンスを見つけ、行動を起こすといった、社会と交わる重要な機会でもあることも否定できません。その証拠に今や、注文仕立てのディナー・ジャケットは夜会に出掛けるビジネスマンや富裕層にとってなくてはならない”勝負服”のひとつになっています(※1)。自身の体型の弱点を補正し、理想に近づけたカットが醸し出す「自信にあふれた姿」をつくり出すのが、オーダーメイドによるビジネス・スーツであることはご存知の通り。ディナー・ジャケットは、その究極のレベルに位置すると考えて差しつかえありません。なぜなら、モノ・トーンの色調で、ビジネス・スーツ(ラウンジスーツ)とほぼ同じ簡素な構成(※2)は、誤魔化しが利かないだけに、テーラーリングの技を存分に活かすことができるのです。たとえば、ディナー・ジャケットを着たハンフリー・ボガートやフランク・シナトラの場合、アメリカ人としては小さな体躯ながら堂々とした雰囲気をつくることができるのはなぜでしょうか。ディナー・ジャケットを着たショーン・コネリーが、ビジネス・スーツを着ているかのような控え目な雰囲気を醸し出せるのはなぜでしょうか。さらに言えば、たとえバー・カウンターの中にいたとしても給仕には見えない理由はどこにあるのでしょうか。このような着慣れた雰囲気をつくる日常服としてのディナー・ジャケットは、不特定多数を対象とした既製品やレンタルでは難しく、テーラーによるオーダーメイドでなければつくれません。ビジネス・シーンで着るパワースーツ的な押し出しの強さを表現するアイディアや、着る人を理解し足りないものを補うテクニック。それらは、私たちビスポークテーラーが手掛けるオーダーメイドのディナー・ジャケットでこそ体験できる投資対価なのです。
※1 年収17万5千ドル以上でディナー・ジャケットを所有していると答えた人84%(MSN調査)/婚礼に際して新郎が選んだ礼装の88.7%<第1位>がタキシード(ウエディングパーク)
※2 カマーバンド、オペラパンプス等の装飾性が強いコーディネイトは除く
参考サイト:松尾健太郎のStyle Concierge