梅雨真っ只中の日本を他所目に英国はもっとも輝く季節を迎えている。去る6月第3週には王室主催の競馬「ロイヤルアスコット」が開催され、今月は初夏の風物詩であるボートレースのヘンリーロイヤルレガッタ、テニスの4大大会の1つでグラスコートの代名詞ウィンブルドン、そしてゴルフの全英オープンが控えている。英国の社交界、スポーツ界の1年のハイライトとも言える催しが天候の良いこの時期に凝縮されているのだ。
「ロイヤル・アスコット」と「ヘンリー・ロイヤル・レガッタ」に関しては、服飾とは切っても切れない関係性がある。「ロイヤル・アスコット」は先述の通り王室主催の競馬だが、いくつかの観戦エリアに分けられており王室関係者と招待客のみが入ることの出来る「ロイヤル・エンクロージャー」では男性は黒かグレーのモーニングとトップハットの着用が義務付けられている。着こなしや仕立てはともかく、モーニング姿の紳士たちが頭にトップハットを靡かせ、傘やステッキを片手に芝生の上を歩きまわる光景は現代ではなかなか拝むことの出来ない稀有なものだ。着用されるモーニングは現在では貸衣装や古着であることが多い。トップハットも伝統的なシルクプラッシュ製の物はヴィンテージかアンティークでしか手に入らないため、ロンドンの仕立て服に強い古着屋などはアスコットの前が掻き入れ時だという。
「ヘンリー・ロイヤル・レガッタ」に足を運べば様々なクラブやスクールジャケットを目にする。レジメンタルタイ同様、クラブジャケットもストライプや紋章で着用者の所属を表している。昨今ファッションアイテムとして取り上げられることも多いクラブジャケットだが、ここではユニフォームとして服本来の役割を果たしている姿を見ることが出来る。先日、英国を訪問された今上天皇がオックスフォードを訪れた折に母校のネクタイを締められていたことは記憶に新しい。
伝統やルール、マナーとしてのドレスコードや着こなしがまだまだ英国には多く残されている。
服でしか表すこと、あるいは語ることの出来ないことがまだまだあるということだろう。際立つ何かで力強く伝えるのか、アンダーステイティドに静かに伝えるのか。英国の「The season」を最中に思い巡らせている。