Column

マテリアルの誘惑

大切にしているフランス製のセルロイドのメガネがある。
Frame Franceと呼ばれる、職人が手作業でカッティングを行っていた時代のものだ。世界一の生地とも評される「フレンチ・セルロイド」。当初は本鼈甲の代替品を目指して作られていたのであろうが、セルロイドのポテンシャルの高さは、いつしか鼈甲を凌ぐような澄み方や質感、色柄の生地まで生み出すようになったのだ。そこに当時の職人の美意識と技術の粋が落とし込まれたフレームは、360度どこから見ても美しく、意外なほどに顔に馴染む。特に黄金期とされる1940年代から1950年代にかけての製品は、双方の良さが如実に現れている個体が多く、熱烈なファンを持つ。残念なことに現在、ヨーロッパではセルロイド(その可燃性のため)の生産は出来なくなっているため、Frame Franceの需要をさらに高めている。現行のアセテートを使ったフレームにも良い物は多くある。だが、セルロイドのフレームにはやはりどこか有機的で、優しい温かみを感じるのだ。

服においても生地(服地)は重要な要素だ。良い生地は美しいドレープや落ち感に直結し、服の仕立て上がりや印象に大きく関わる。
「この服地でこういう服が作りたい」 そのような経験はないだろうか?先にスタイルや用途があり、次に生地を選ぶという流れが一般的だが、オーダーを幾度か経験すると、逆の流れも出てくるだろう。スタイルに素材を当てはめるのではなく、素材からスタイルのイメージを作ることにはある種クリエイティブな楽しみがある。

生地棚をじっくりと眺めながら心と共鳴しあう服地を見つけ出してみてはいかがだろうか。