Column

マルヴァーンの丘にて

景色と衣服というのは密接な関わりがある。例えばロンドンのメイフェア辺りを歩くなら、やはりダークなウーステッドが映えるだろう。目の詰まったスポーティなツイードを手に取るとき、私が思い浮かべるのはマルヴァーンの風景だ。

英国はウスターシャー州の南西にある街・マルヴァーンは美しい丘陵地帯として知られている。筆者がマルヴァーン・ヒルに登ったのはちょうど今頃の季節だった。行進曲『威風堂々』や『愛の挨拶』で有名な作曲家エルガーの生家も近く、丘の上に立っていると今にも彼のチェロ協奏曲が聴こえてきそうな情景は、スコットランドのハイランドやイングランドの湖水地方とも違う、寂しさと温かみの相反する印象が同居する。ツイードのスーツに身を包んだエルガーがその景色を前に思想に耽っている姿も想像された。

季節の移ろいを五感に覚えながら冬支度をする秋は、一番愉しい時間だと感じるのは筆者だけではないだろう。だが、今年はその秋が「不在」かのように冬が既に顔を覗かせている。リズムを狂わされたとはいえ、また着る愉しみを味わえることに心を踊らせている。