行きつけのバーにて、旧友との10年ぶりの邂逅だった。懐かしい話でひと頻り盛り上がったのち、友人はシガーをやりたいと言う。店主におすすめを尋ねたら、ちょうど2本残っていたロミオ・イ・フリエタの「チャーチル」が出てきた。「チャーチル」というのはシガーのサイズのことで、長さ178mm、太さ18,65mm(リングゲージ47)と長く、元英国首相ウィンストン・チャーチルにちなんで名付けられた。火をつけるなり、あまりにスムーズな喫味にしばし声も出ず、ロミオ・イ・フリエタの醍醐味とも言える上品で自然な甘みを堪能した。中盤に差し掛かると濃厚さが増し、後半に向かってスパイシーで複雑な味わいへと変化していく。吸い方にもよるが、後半でえぐ味が出て楽しめない葉巻も多い中、この「チャーチル」には最後の数センチに至るまで魅了された。
この体験を服と結びつけてしまうのはもはや職業病だろう。友人と別れた後、シガーの喫味の変化と服のエイジング、それらの共通点に思いを馳せずにはいられなかった。何度かこのコラムでも触れてきたが、服は出来上がって完成ではないのだ。着られていく中で更に魅力的に変貌していく。1つだけ違うとすれば、最後に灰になって終わないということだろう。
