「仕立てる」という言葉。「布地を裁って衣服を縫い上げる」という意味で私たちにはとても馴染みが深い。だが他にも「目的や望んだ状態につくりあげる」、「美しく拵える」、「1人前にする」といった意味もある。盆栽や観葉植物を美しい樹形に整え鑑賞価値の高いものに形作ることが良い例だろう。そこには植物と人間、生物同士の有機的なやりとりがある。欧米で盆栽のブームが起き専門店が出来たり、アガベやビカクシダといった「ビザール・プランツ」が現在、日本でも非常に高い人気を誇っているのは、単にコレクション性や物珍しさだけの問題ではないだろう。買って終わりではなくその後に「仕立てる」という工程が残されている。植物と対話しながら、温度や湿度の管理に加えて施肥や水やりの量や頻度を加減、光の量や質(色合い)、当て方、茎や枝の向きを矯正など様々な方法で自分だけの1鉢に仕上げる、これこそが植物の最大の魅力だろう。このご時世、育成方法はインターネットで検索すればいくらでも確認することが出来るが、同じ品種でも環境が変われば同じようには仕上がらないところがまた面白いのだ。
さて服を「仕立てる」ことはどうだろうか。「仕立て服」もまた顧客とテーラーの有機的なやりとりがあって出来上がるものである。同じ生地を使っても着手が異なれば同じ服は出来上がらない。さらに、仕立てて終わりではない。顧客の目的や要望を織り込みながらテーラーが作り上げた1着。それを今度は着手が大切に着込んで1人前にする。この長い工程こそが服を「仕立てる」ということの魅力なのだ。