冷たく乾いた風が肌を撫でる。いつになく厳しかった夏の暑さが嘘だったかのように。春夏と頑張ってくれた服たちを労い、いよいよ出番を迎えるツイードジャケットに挨拶をする。この瞬間を待ち侘びていた。一度袖を通すと郷愁を誘う粗野な感触、ラノリンの香り、生地の重み、ツイードの様々なエレメントが私達を空想の旅へ連れていってくれる。
スコティッシュハイランドの荒涼とした大地。そこには訪れる者を圧倒するような大自然が広がる。ライラック色に咲き誇ったヘザーの名残が残る草原で羊が草を食んでいる。クロフターが黒々としたピートを大地から切り出し、燃やして暖をとる。そのスモーキーな香り。港町には、漁から帰って来た漁師が一目でわかるようにとカラフルな色の家々が連なる。枚挙に暇がないほど魅力的な景色が浮かび上がる。
ツイードはまるで印象派の絵画のようだ。スコティッシュツイードにはスコットランドの、ドネガルツイードにはドネガルの港街の、イングリッシュツイードにはイングランドのカントリーサイドの情景がモネやゴッホの風景画のように浮かびあがってくる。
北の大地に思いを馳せて旅の計画(空想)を練る。
このツイードジャケットには何を合わせようか。靴はどれがいいだろうか。その楽しい悩みは旅の計画の大きな醍醐味だ。交通手段の利便性が著しく増した現在においても服は、古の旅情を抱かせてくれるものとして我々に寄り添い続けてくれる。