Column

古きを訪ねて

古着の人気というのは根強く、SNS等の後押しを得て近年その熱は未だかつてないほど高まっている。中でも1930年代から40年代にかけてのスタイルは人気が高い。しかし、需要の高まりに反して、本物の「ヴィンテージ」はどんどん貴重になっている。そこで最近では当時のスタイルの「再現」という表現も多く見られるようになった。しかしこうした製品を見るにつけ、完全再現することの難しさを感じる。話は「型紙を取って縫えば良い」だけではないようだ。

極端な例ではあるが、ストラディヴァリウスのヴァイオリンは製作されてから数百年を経た現在に至っても未だ「完全なレプリカ」の成功は報告されていない。アントニオ・ストラディバリ(1644年[諸説あり]〜1737年)はイタリアの北西部クレモナで弦楽器製作家として活躍した。クレモナは楽器製造の町として知られ、靴でいうところの英ノーサンプトンに当たる。ニコロ・アマティの元で修行し、同時代の双璧グァルネリ・デル・ジェズとともに弦楽器製作の一時代を築いた。 数億円で取引されるオリジナル楽器を多くの製作家が再現しようと試みたが、現代の技術や研究を以てしても、奏者や聴衆を魅了するあの音色は未だ謎に包まれたままだ。ただ、こうした研究や試行錯誤が後世の楽器制作に大きな影響を与えているのも事実だ。通称ストラドモデル呼ばれるレプリカも奏者の間で高い人気を誇る。

服に話を戻そう。当時のスタイルを研究し、高いレベルで再現出来ることは非常に意味のあることだ。古きを訪ねてどのように現代に沿うものに昇華させるか。作り手の創意工夫、センスや経験が注ぎこまれて生まれ来るものに期待したい。