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ビスポークが「なじむ」ようになったのはいつ頃からですか? |
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岡本氏: |
3着目に秋物のジャケットをあつらえました。それからです。スーツを着る機会というのは僕の普段の生活の中にはほとんどありません。「普段スーツを着ることが普通になればいいな」とは思っていましたが、やはりそう安々と普通にならないわけです。3着目のときには、自分一人でbatakを訪れ、中寺さんに「僕にはスーツが板に付かないのではないか」というようなことをお話しました。でも、「普段の生活でビスポーク・ウエアを着たい」、「いつも穿いているボトムはアーミーパンツやデニムだけど、それにジャケットを着ていてタイドアップするのもいいのかもしれない」というような話をしたら、「ではジャケット作りましょう」ということになった。それでジャケットの生地見本を見るときれいな生地ばかりで、着た自分の姿を想像しながら選ぶうちに、どんどん楽しくなってきましたね(笑)。
僕が重視しているのは、着ていることを意識せずにいられる平常心的な感じ。ですから、着つけないものを着るとソワソワしてしまう。普段の自分の生活と乖離しているものを身につけると、どうしても落ち着かず、何か自分の着ているものが気になってしょうがない。編集者だから本当はもっと引いたところで洋服を見ていなければいけないのでしょうが、「世の男性は」とか、「メンズ・ファッションはこうあるべきだ」なんてことは考えたことがありません。 |
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そうおっしゃる岡本さんは、以前、有名なライフスタイル誌のファッション頁を担当されていたことがあるそうですね。 |
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岡本氏: |
確かに女性・男性誌の双方でファッション・ページの編集担当していたことがありますが、ファッション・ディレクターがいて、彼・彼女の考え方を具現化するというのが僕の役目。本来は客観的な視点でファッションを見ていなければいけないのですが、人間なんて自分という尺度でしか本質を理解できないのではないだろうか、と考えています。それに、ちゃんと自分の喉元から出る言葉でしかうまく伝えられない質なので、少なくとも自分の着る服について好きだという理由がはっきりしていれば、趣味やスタイルが違っていても「なぜ、それがいいか」が解るようになると思っています。たぶん、僕はbatakに出入りしている顧客の中で、いちばん洋服のことを知らないと思いますよ(笑)。 |
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岡本 仁氏/1954年、北海道生まれ。早稲田大学卒業後、民放放送局に就職。その後、銀座にある大手出版社へ転職。数々のライフスタイル誌を手がけ、編集長も歴任。現在も女性ライフスタイル誌の編集部員として活躍中。奥様との共著に『今日の買い物。』『続・今日の買い物。』(ともにプチグラパブリッシグ)がある。
岡本氏のブログ http://fablog.tumblr.com/ |
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