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活きているスーツ、バタク ドレープスーツ。

2017年06月16日

 

ドレープスーツと聞いて、「?」と思われる方、ロンドン・カットと言えばお判りでしょうか。ロンドン風の仕立て・裁縫技術でもあり、長い時間を経て伝承されて来たスーツ・スタイルとも、カッティングとも言えるものです。約90年前に発案された様式で、幾度となく裁縫手法やカッティング、スタイルやフォルムが変化・流動しながら、現在でも手直しされて活き続けています。ですから、巷で言うドレープスーツとは、最初期1930年代の解釈が通念化しているだけで、実態とはややかけ離れているのが現状です。

具体的に言えば、当時欧州では、民主化が進み貴族の専有物だったスーツに“労働という概念“が加わります。すなわち、スーツに “動きやすさ”が要求されるようになります。それは主に、弱めのテンションで柔らかく縫う「ソフトテーラリング」を顕在化させることになりました。また、アメリカ人ほど筋骨隆々ではなかった英国人を、よりたくましく見せるコンセプトも発案されています。体型の優劣にかかわらず、男らしく見えるように考案された「Vシェイプ」です。胸幅を大きく取り、そこに服地のヒダ(ドレープ)を作り、腰に向かって一気に絞ることで形づくられる“逆三角形のライン”。もちろん、動きやすさを担保するために肩やアームホールは余裕を持たせる構造になっています。この動きやすさとVシェイプこそがドレープスーツの根幹を成す考え方だったのです。初期のドレープスーツは後に英国式とアメリカ式に分派しますが、アメリカ式は戦後に流行するボールド・ルックへと変容していきます。両者の大きな違いは、絞った腰から裾に向かうライン(スカートラインと言います)がまっすぐである英国式に対して、アメリカ式はスカートラインがフレア状になっていました。

では初期のドレープスーツを現代の日常で着ることができるか・・・。いやはや相当な服装趣味、いわゆる「華麗なるギャッビー」のような映画の衣装になることでしょう。リアル・クローズとしてビジネスシーンで着るには違和感があるのではないでしょうか。しかし、現在、ロンドンのサヴィル・ロウやバタクで仕立てられているドレープスーツなら、ビジネスも公のシーンでも違和感なく着用することができます。その理由はどこにあるのでしょうか。

私たちは「今」という時代に日々生きています。約90年前のスーツ様式をミリ単位で踏襲・再現したとしましょう。昔と同じ構造のスーツを着た瞬間、重い・堅い・動きづらいと文句をおっしゃられるに違いありません。現代のスーツに慣れてしまった身体は正直です。とはいえ、昔ながらの動きやすさの工夫も、ドレープ(布地のヒダやタワミ)の出し方も現代では通用しない反面、スタイルが醸す優雅な雰囲気だけは頭の中で増幅されているものです。想い出は美化されるのです。だからこそ、長い時間をかけて腕っこきのテーラーたちは、ドレープスーツの概念を大切に守りながら改良と時代適応に心血を注いできました。軽やかな着心地を作り出すテーラーリングの工夫。控え目で上品なドレープ(服地のヒダやタワミ)の出し方。極端なVシェイプではなく、腰上・腰下のバランスが取れたスカートラインの作り方。ソフトテーラリングを実現する裁縫の妙技。これらの細かいイノベーションを繰り返すことで、旧きよき時代のクラシック・センスを実現しながら、21世紀的な機能性を先端のレベルで成立させているのです。

ドレープスーツではなく、他の様式を選択する道もあったでしょう。しかし、戦前・戦後に発案されたほとんどのスタイル・メソッドは消えてなくなっており、テーラーによって各々解釈は多様ですが、残っているのがこのドレープスーツを含め2〜3の様式に収斂されているのです。おそらく21世紀のビスポークにおいても、ドレープスーツは生き続けるでしょう。

男を男らしく魅せる本質的なカタチを有していること。ドレープにより服地の豪奢さを引き出す仕立て手法を備えていること。ビスポーク・ウエアとして一流のビジネスマンに支持されていること。そして、旧くて常に新しいスーツとして、イノベーションを怠らないこと。私どもバタクはドレープスーツを次世代へと継承するためにも、これら4つのポリシーを一切の妥協を排して実践しています。

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