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フォーマル、人と出会う日常服。

2017年10月21日

フォーマル・ウエアは特別な日に着用する服。タキシードやブラックのディレクター・スーツ、ウェディング・スーツなどに対して、誰しもがそんな考え方をお持ちではないでしょうか。確かに、モーニングや燕尾服(テイルコート)となれば特別な装いの気分はグンと高まります。ただし、フォーマル・ウエアには“特別な日の服”ではない側面があることを知っていてほしいのです。

現在に続く紳士服フォーマルの礎を築いたのは英国。その英国と同様の立憲君主制の国は世界に42カ国あり、王室・貴族は日々の公務に追われて暮らしています。たとえば、エリザベス女王の夫君、エディンバラ公フィリップ殿下の場合、780以上の団体を支援(パトロネージュ)し、もちろんその会員にもなっており、団体に対する王室の広報的な公務だけで1年の三分の二の時間が費やされると言います。これらの務めの多くには夜会(パーティ)、晩餐、音楽会などが設定されているため、夕刻以後のスケジュールにはブラック系のフォーマル・ウエアが大活躍となるわけです。

フィリップ殿下の場合は、妻であるエリザベス女王が年間200件以上に公務を抱え、それらのうちネルソン・マンデラ氏の解放(※)のような女王が外交に係わる仕事にも付き添うわけですから半端ではありません。何が半端ではないかと言うと、政治外交の場面でもやはり王室は晩餐から交渉事に入っていくのが通例で、ブラック・タイ(=タキシード)やフォーマルな服装を着る機会が実に多いのです。王室、それに準ずる貴族階級たちにとって、フォーマル・ウエアが「特別な日に着用する服」でないことは彼らの仕事を想像すれば、容易に理解できることでしょう。彼らにとってフォーマル・ウエアは日常なのです。しかし、それは我々の世界とは隔絶した王侯貴族の世界、と捉えて受け流すわけには実はいかないのです。

ある程度年齢を重ねていくと交際範囲は自ずと広くなり、冠婚葬祭はもちろん、仕事上のパーティなどが増えてきます。日本人の多くの方はそんなシーンを通り一遍の儀式として軽視しているように思えてなりません。フォーマル・ウエアの根底にある考え方は、社交だと言えます。だから、何も婚礼や葬祭だけに用いる服ではありません。酒宴に出かけるときに着る仕立てのいいブラック・スーツも、もちろんフォーマルのひとつですし、ホテルに宿泊した際に施設のバーでくつろぐ際の“引き算のような”さりげないタキシードもまたフォーマルのあり方だと思われます。セレモニーというよりも、交際の場を楽しむ服装にフォーマルの真価があるように思えてなりません。たとえば、それは映画を観ていればしばしば気づかされることのひとつです。あの有名なジェームズ・ボンドは旅先でも毎夜タキシードを着て、女性との出会いを求めて一杯やりに出かけます。また、女性と食事を楽しもうとブラック・スーツにシルバーのシルク・タイというスタイルでセーヌ川の遊覧ディナーに出かけたのは、「シャレード」で大使館員役を演じたケーリー・グラントでした。

さすがに、モーニングやテイルコートを日々着用する例は希ですが、21世紀の現代にありながらクラシックなフォーマル・ウエアを着る背景には、単なる伝統や格式ではない何かがあるからに違いありません。それは、おそらく社交を通じて「人生を謳歌する」という共通目的を互いに確認し合うためではないでしょうか。今なお君主制の国イギリスにおいて王室外交というのは、政府の行うハード外交に対し、ソフト外交と言われています。そして、外交とは「会う」ことから始まります。そうです、フォーマル・ウエアは大切な人と「会う」ための服なのです。そしてそれは、日々をちょっと美しくする日常生活のスパイスなのです。ちなみにフォーマル・ウエアを着こなす唯一のテクニックとは、「頻繁に着る」ことに尽きます。

2018年3月より、バタクでは全店をあげてフォーマル・ウエアのオーダー対応を拡充させてまいります。ご期待ください。

 ※参考文献   君塚直隆 著『女王陛下の外交戦略 エリザベス二世と「三つのサークル」』講談社刊

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