英国はハダーズフィールドにあるジョセフ・ラム の紡績工場。
当店のブログでも度々登場する「ラムズ・ゴールデンベイル/Lumb’s Golden Bale」。オーストラリア産の最高級羊毛を使い、英国ハダーズフィールドの「ジョセフ・ラム」社が紡いだ高品質毛糸のことを指します。この毛糸には、独自の紡績方法から生み出される多面的な特性があり、伸びやかな伸縮性と弾力性、柔らかさ、光沢感、しっとり感など、まさに高級を絵に描いたような服地を作り出すことで絶大な評価を得ています。
しかし、希少だと言われながらも通年で販売される状況から、お客様の中には品薄感を前提とした販売戦略だと指摘する人もいらっしゃいます。これは失礼ながら的外れと言わざるを得ません。希少というのは大量に紡績できない「ジョセフ・ラム」社の生産規模・技術・設備に起因していると言います。また、「今年はこれだけ」と決めて、余剰在庫を持たないようにしている同社の方針とも言えます。
さて、「ラムズ・ゴールデンベイル」を織ることができるミルは「テーラー&ロッジ」だけという話は有名ですが、この独占契約の真意は「毛糸がほしい」というミル各社の発注にそれぞれ応えていたら生産量をすぐにオーヴァーしてしまい、品質管理にも多大な影響を与えかねないからというのが真相のようです。要するに、「ラムズ・ゴールデンベイル」の毛糸を紡ぐ「ジョセフ・ラム」社は、量産型の生産システムを持っていない、あるいは効率を追求していない会社なのです。結果的に「テーラー&ロッジ」で織り上げられる「ラムズ・ゴールデンベイル」は少量生産となり、流通量も限定的になるわけで、ボリュームが利益の源泉であるミルとしては、扱っても利益になりにくい商品に位置づけられています。
これはマーチャントの取り扱いにも言え、かつては「H.レッサー&サンズ」が唯一の服地商として「ラムズ・ゴールデンベイル」の販売を担っていましたが、買付できる量も限られ、単価が高くても利益率の少ない商品だったためか、現在ではほとんど扱いがありません。
ではなぜバタクでは比較的潤沢に「ラムズ・ゴールデンベイル」が品揃えできているのか。それは大量に在庫を保持している服地商や羅紗屋の仕入ルートを確保していることと、「ラムズ・ゴールデンベイル」の価値がわかるリピーターのお客様を当店が抱えているからに他なりません。では、「ラムズ・ゴールデンベイル」の価値とは・・・。弾力性や粘りコシといった物性ももちろんですが、この時代にあっていまだに少量生産でしか紡績を行わない「ジョセフ・ラム」社の頑迷なポリシーであると考えられるのです。