Column

続く、テイラーリングの発想。

いわゆる戦後生まれのベビーブーマーが支えて来た、集団消費社会が完全に終わろうとしています。渇きにも似た消費欲求を持つ世代はすでに年金生活者となり、その面影は遠い日の花火のようでもあります。流行をいち早く発見し、ファッション・リーダーの下、大量消費・大量生産のモノづくりシステムから紡ぎ出された洋服を皆で一斉に着て時代参加を楽しんだ世代。着ることで社会へメッセージを鮮明にした反抗の世代。彼・彼女たちは本当にオシャレを諦めたのでしょうか。

集団消費社会を支えた世代と両輪で消費を牽引したのが、アパレルと呼ぶ量販の服飾メーカーでした。流行の兆しをつくり、気運が傾けば一気にデパートや専門店の売り場が同傾向の服であふれさせます。ただし、以前のような購買パワーを持つ世代が存在しないにもかかわらず、従来の消費システムを脱せずにいます。もちろん、状況を理解している大手アパレル企業では経営戦略の転換などに追われていますが、遅きに失していることは否定できず、そのビジネスモデルの完成度が高かったこともあり、旧来の仕組みから抜け出すことの難しさを露呈しています。

そんな苦難の事業再生下で何かと期待されているのが、EC(ネット通販)やデジタルによる生産支援システムと言われています。確かにECの事例はバックヤードのコストが安く、流通対策などにおいても効率的で利益水準も悪くありません。大手のアパレル企業では業務改革の目玉としてEC展開にチカラを入れていますが、各社同じような発想とシステムベンダー依存の取り組みだけでは、業績を好転させる事業の旗頭に成長できるかどうか疑問です。むしろ、ボリュームの上に成り立つ20世紀型のビジネスモデルからの脱却を急ぐべきだと考えます。おそらくそのキーになる発想が旧来の服づくり=テイラーリングにあると私たちは考えるのです。

テイラーリングという発想は、単にスーツを仕立てる裁断・縫製技術を指すのではなく、服を注文する人間が技術者と対座しながら、物を創造していく生産システムのあり方だと解釈しています。つまり、各々の個性が持つ魅力の最大化をはかること。別の言い方をすれば、「個」の持つ美学の探求がもたらす自己実現にこそ、市場の活力をもたらすと想像しています。これまでの集団消費のように「量」や「質」に解答を求めるのではなく、着る人ごとに個別の解答があることを前提とした満足です。そして「個」が持つ美学というのは、ファストファッションでは対応できない服づくりのアイディアであり、人と人が向かい合う生産システムのあり方を変えてきます。ただし、テイラーリングだけが集団消費社会に代わる解答を持っているかというと、必ずしもそうではありません。従来のボリュームに立脚する「衆」的な服、新奇性にのみ価値が特化している「新」的な服、そしてテイラーリングの発想で作られる「個」を追求した服。「衆」「新」「個」、これらの混成と組み合わせが服づくりのビジネスに弾みをつけるに違いありません。なぜなら、これらを組み合わせた商品構成が、ECという好調な流通業態において業績を上げているからです。

ポストコロナの競争平面で、「個」へのシフトは不可避だと言われています。在宅という価値を通じて「個」の空間、「個」の時間が現実の価値として体験されるとき、豊かさを識る人たちには集団消費時代の満足とは異なる、より完成された「個」を求めたくなるはずです。それは、外出を避けること(ステイホーム)でスーツを着なくなるといった「集団消費的=ファストファッション的」な発想に甘んじるものではありません。新しい方法論を目指すのではなく、テイラーリングと言う昔からあるモノづくりの概念を深化させていくことに打開の方法論が見えてくると考えるのです。大量消費時代、成熟時代を生きる彼・彼女たちにとって、このテイラーリングのアイディアこそ、残された豊潤なお洒落の価値として受け止められるでしょう。市場こそ身丈に合うサイズを求められますが、それがこれからの時代適合性だと、私たちは確信しています。