Column

なりたい自分を、考える。

ビートルズの作品に「Let it be」という有名な楽曲があります。直訳すれば「ありのまま(の自分がいい)」「つくろわない(姿がいい)」というような意味合いでしょうか。「ありのままの自分」で日々生きていけたなら、それに越したことはありません。大概の人は「ありのままの自分」ではうまく行かないので、社会との軋轢の中でどうすべきかを考え、「なりたい自分」を懸命に目指すものです。つまり、大人を磨くルーティーン=自己実現への取り組みを日々行っているのでしょう。洋服を楽しむことは、そんな「なりたい自分」を実現させる非常に効果的なツールだと思うのです。そう考えると、テーラーは紳士服づくりの専門家であると同時に、うがった言い方かもしれませんが、貴方の「なりたい自分」に対して助言やノウハウをご提案する客観的な技術者という側面が見えてきます。すると、ビスポークとは「なりたい自分」を創り出す技術なのだ、ということが明確になって来るのです。容姿から責任ある地位がのぞく。立ち-居振る舞いが知性と自信をみなぎらせる。大人の出で立ちが落ち着いた品格をつくる。控え目なスタイルが創意や豊かな感性を浮かび上がらせる。このように、着るという行為を通じて「なりたい自分」をテーラーと二人三脚で創造してゆく。そして年齢を重ね、洋服を着る・誂える術を身に付けてゆくと、「なりたい自分」と「ありのままの自分」、この両者のギャップがどんどん小さくなってゆくものです。私たちバタクでは、それを「成熟」と呼んでいるのです。