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撮影後はコネリーのもの。

つい昨日まで大型トラックの運転手をしていた労働者階級の男、と揶揄されてきた初代ジェ—ムズ・ボンド役のショーン・コネリー。デビューに際して監督のテレンス・ヤングから上流階級の装いを手取り足取り指南されたのは有名な話・・・ですが、実際の彼は逸話とは正反対の、服装にうるさい男であったそうです。テーラーのアンソニー・シンクレア(※)とスーツの仕立てについて話ができるほど、お洒落好きでした。なにしろ、初期作品では着用後(プレミアショーなどのプロモーションイベントも含め)のスーツはすべてS.コネリーの指示にしたがって、シンクレアの店で仕立て直しを行い、S.コネリーの所有物にしていい、との契約が結ばれていたほどです。ドケチが高じて「使用済みの高級スーツを俺にくれ」、という逸話とはまるで違います。「スーツの修整をS.コネリーの指示に従って」というところがポイント。ちなみに彼は’年代テイストのドレープ・スーツがお好みだったそうです。

※アンソニー・シンクレア

最盛期には約20人のスタッフを抱えるテーラーを経営。サヴィル・ロウにほど近いコンジット通りに店舗があった。生家もテーラーを営んでおり、チャキチャキのロンドン子。コックニーであることに誇りを持っていた。S.コネリーが着たスーツはすべてシンクレアが仕立てたものだが、彼の店で提案しているスタイルとは異なる。S.コネリーのボディービルダー体型に合わせた極端な構造で有名になったが、シンクレアの志向は控え目なもので、大人のドレープ・スーツを得意としていた。

Tailor Anthony Sinclair, who provided the suits for Sean Connery in the early James Bond films, 1965. (Photo by Larry Ellis/Express/Hulton Archive/Getty Images)