鬼怒川の老舗温泉旅館を経営していた祖父。ホテルマンとして多忙を極めていた若い頃の父。両人の背中を見ながら育った私は、おのずとその所作にオトナの悦びを発見していたのかもしれません。たとえば、季節毎にテーラーが我が家を訪れ、奥座敷で茶談をしながら採寸・受注の手はずを整える、何とも神々しい光景が好きでした。今は事業を引退してスーツを着ることもめっきり減ってしまった父ですが、若い頃には俳優 石原裕次郎が着ていたような服装をし、裕次郎が所有していたメルセデスの300SLに影響され、縦目のメルセデスSクラスを所有していたこともありました。あの頃のクローゼットにはスーツ(すべて誂え)がずらりと並んでいたのを思い出します。そして私は先代たちが奥座敷で経験したビスポークの作法を、バタクに通い詰めては学んでおります。