Column

経済とビスポーク。

「金融関係に従事している人たちが、スーツを新たにオーダーし始めたら景気が良くなっている証拠だ」と言われて来た英国はロンドン。ロンドンと言えば、シティと呼ばれる欧州地域の金融拠点。EU離脱にともない金融ハブとしての行方が注目されており、今後はどこの国がその役割を担うかでさまざまな憶測が世界中を席巻しているのです。すでに、2,000人もの雇用をフランクフルトとダブリンに移転させる手続きをとった「モルガン・スタンレー」は、ロンドンからの機能移転を早々と実行しているようです。

金融ハブの代替拠点として名前が挙がっているのは、フランクフルトやパリ、ダブリンなど。移転先には膨大な雇用が生まれ、当然経済も活性化し、金融ハブ地となった都市には大きなメリットが転がり込みます。だから、候補地と噂されている都市もPR活動に躍起です。

英国という国はGDPの22%を金融業が占めており、220万人の従事者数(うちロンドンは70万人)を抱えています。したがって、冒頭に書いたように、景気のバロメーターを示す「スーツをオーダーする顧客」の中に金融業者が占める割合は決して少なくありません。つまり、もし金融拠点であるシティがフランクフルトやパリに移転したら、サヴィル・ロウの経営にも強烈な打撃を与えることは間違いないでしょう。また、欧州における第二の金融センターであるパリに移転しようものなら、サヴィル・ロウの支店をパリにでも出さなくてはいけない、という状況にもなりかねません。パリはすでに欧州第二の金融センターとしての機能を有しており、これまで働いていた人たちは同地に馴染みのテーラーを持っているので、その影響は少ないかもしれません。しかし、新たな金融センターとしてさまざまな金融系企業が流入してくることを考えると、ヘッドハントや転職が増え、サラリーもアップする。すると、彼らの購買欲はビスポークにも向く。閑古鳥が鳴くサヴィル・ロウを尻目に「フレンチ・テーラーが台頭」なんて言う状況訪れるかしれません。もちろん、想像ですが。

morgan_stanley