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バタク・クロス開発話① 新・英国主義にもの申す。

英国の毛織物業界が80年代を前後して脆弱化した時期がありました。背景には高度に機械化された生産設備への投資が滞ったこと、イタリアの国策的なテキスタイル産業への産業振興が英国の地場産業を直撃したことなどの問題がありました。この一連の動きがもたらしたものが、英国の製織工場や服地商の経営難による身売り・買収です。それは、英国服地の品質に変化をもたらし、いまだにその動きは加速しています。端的に言えば、薄板のようにパリッとしながらも、深い弾力性がある風合いと、シワに強く立体的なシルエットをもたらす英国ならではの服地特性が衰退していく流れです。今や、フィニッシングという最終加工処理技術が進んでいるためか、仕立て上がり時こそ旧来の英国製服地のようでも、着込んでゆくと服地のコシが減退し、くたびれたスーツになり果ててしまうお品が多々見受けられます。「バタク・クロス」は、そのような近代化および量産化で再生した新・英国主義的な品質にもの申す商品であるとお考えください。スロースピードの織機でいい。時間のかかる紡績工程でいい。束の間の化粧のような最終加工はいらない。生産効率性や納期の短縮よりも、高級テーラーが自信をもってお客様に献呈できる真の品質をお渡しする。そうなると、国際競争力を身に付けた英国のミルやマーチャントへの生産オファーでは限界があると思われるのです。英国以上に英国的であり、とりわけ家内制手工業から産み出される成果物こそが、私どもの答えでした。無論、デッドストックならいざ知らず、そのようなものが市場にころがっているわけがありません。市場にないなら、創るしかない。このポリシーを起点に、高級服地「バタク・クロス」の開発が始まりました。(つづく)