年配の方なら存知かもしれません。アカデミー賞4部門にノミネートされた名作、「頭上の敵機/Twelve O‘clock High」。戦争映画の名作ではありますが、ビジネスパーソンを育成するマネジメント研修にはよく活用される映画です。公開は第二次世界大戦終結後間もない1949年。戦勝ムードの作品がひしめく中、描かれているのは「リーダーのあり方」に直面し、苦悩する上級将校たちの姿でした。
物語の舞台は1942年、アメリカ爆撃中隊が駐屯する英国アーチベリーの航空隊基地。戦果のかんばしくない中隊を新たに指揮し、確実な成果を上げる准将(グレゴリー・ペック演)が主人公。規律と成果を重視する冷徹な准将に対し、当初は反抗的な立ち位置を取る兵士たち。やがて、作戦の達成能力、被撃墜数の少なさなど准将のチカラを目の当たりにし、信望を集めるようになっていきます。芽生える将校と兵士の連帯感やリスペクト。しかし、その人間としての矜持が逆に准将の疲弊した精神を蝕んでいく・・・というのが同作品のシノプシスです。
リーダーシップのあり方を描いた同作品ですが、服装の面からもそれを緻密に補完する描き方が実に見事です。たとえば、英米軍が採用していたトレンチコート。この外套を着用できるのは将校以上の階級で、しかも仕立ては将校服の例に漏れずビスポークとなります。ですので、軍用統一仕様(ミルスペック)の量産サープラスとは違い、中将と准将と大佐にはそれぞれ微妙に異なるデザインのトレンチコートが用意されているあたり、ハリウッドの底力をお思い知らされます。
当然トレンチコートの素材となるとコットン・ギャバディンということになりますが、これもビスポークだからでしょう、ウール・ギャバディンも選択されていたようです。重量感が見て取れるものもあれば、主人公の准将が身に付けている雨具的なものも登場します。共通するのはそのサイジングで、たっぷりと余裕を持たせており、それが将校にふさわしい優雅さを醸し出している点です。これらのトレンチコートは、塹壕で兵士に供給されていた第一次大戦時のギア的な性格のものや、第二次大戦後の簡素化されたものとは異なり、階級差を一瞥で判断できるようにデザインされている点が秀逸です。トレンチコートだけでなく、上級将校専用に仕立てられていた執務時の制服なども同様で、役柄のキャラクターに合わせて微妙に差違をもうけており、身だしなみがいかに軍の規律維持と連係しているかを印象深くかつ丁寧に描いています。この映画作品を活用したマネジメント研修が多いと冒頭に書きましたが、服装から捉えたマネジメントのあり方もまた組織論を考える上で有効な材料だと言えます。と言うのも、指揮命令系統が機能する組織の「見える化」には軍の服装が最適だからです。
ちなみに、本作品はアーミー・サープラス好きには堪らない作品でもあります。第二次大戦中のA-2フライトジャケットがさまざまなシーンに登場していたり(生産・供給数がもっとも多かった時期のモデルで、革の素材感が後年のモデルに比して美しい)、爆撃手がB-3フライトジャケットを着て高度1万メートルを飛ぶB-17爆撃機に搭乗していたりと、当時を知る資料としても楽しめること請け合いです。
20世紀フォックス作品/ヘンリー・キング監督/グレゴリー・ペック主演/DVD、ブルーレイ販売・レンタル
肩の仕立て、襟フックのありなし、ベルトの造作、生地、エポレットなど細かい仕様差があります。階級は総司令官、准将、大佐、少佐まで。英国駐留の陸軍飛行部隊ですので、製造は英国のサプライヤーかもしれません。